アルバム参加ミュージシャンは総勢19名。金子マリ、桑名晴子、細井豊(センチメンタル・シティ・ロマンス)、チャールズ清水(ソー・バッド・レヴュー)、松田ari幸一(ラストショウ)、駒沢裕城(はちみつぱい)らベテラン勢が集結。ミュージシャンとしての吉村瞳が持つ素養を彼らから垣間見ることができる。しかし、レコーディング終盤で緊急事態宣言が発令されたため完成直前で中断。
「残りは駒沢裕城さんのペダルスティールとストリングス・カルテットとの録音、松田ari幸一さんのハーモニカを残すのみだったんです」
本来ならば5月末に発売を予定していたものが、レコーディング再開が6月になったために発売は秋になってしまった。その時点でもツアーを再開することはできず、吉村瞳のライヴはリモートか、もしくはSNSでのみしかその歌声を聞くことができなかった。
年間100回以上のライヴ数をこなす吉村瞳にとっては生殺しのような日々。苦しい時間だったに違いない。
Q : ライヴを中心に活動するアーティストにとってコロナ禍は苦しい時間ですね。
吉村瞳 もちろん、いろいろなことを考えますね。ずっと部屋にいましたから(笑)。でも、それはわたしだけじゃないし、ミュージシャンだけの苦しさでもない……と思いつつ、新作を聞いてもらいたい。そんな思いが交互にやってきます。
『stories』は全曲オリジナルであることもはじめてだったし、たくさんのミュージシャンに支えてもらって作ったので自信もあります。それだけにツアーをして、直接聞いてもらっいたいと願っていました。
Q : それでリモート・ライヴをはじめたわけですね。
吉村瞳 リモート・ライヴをはじめたのは5月でした。はじめてだったのでスマホだけでやったんです。まだ半年しか経っていないけど、今では考えられない暴挙ですね(笑)。
『stories』が発売されてからは毎週月曜日22:00から1時間ほどインスタグラムでもライヴをしています。これはとてもラフな感じで、自宅からの配信です。わたしは新しいモノ好きなんでクラブハウスでもうたっているんです。長いときには4時間ぐらいうたっていて、いろんな人とコラボしたりとか……友だちがいないんでクラブハウスでうっぷんを解消しているんです。わたしの歌を聞いてもらうというよりは、MCの練習をしている感じです(笑)。
吉村瞳 たまたま平成から令和に変わる夜(2019年4月30日)に「sotries」という歌ができたんです。わたしの甥っ子や姪っ子にあてた歌なんです。新しい時代をたくましく生き抜いて、というものなんです。
日本語詩のオリジナルはその少し前から書きはじめていて、そのための用意ははじめていました。以前に書いた英詩のものを日本語詩にしたり、以前に書いたものを手直ししたりして。で、その年の夏ぐらいから未完成のものも含め、どんどんとオリジナル曲が貯まってきたんです。11月に九州ツアーへ出るころには日本語詩のオリジナル(未発表曲)が30曲ぐらいになっていて、そこから絞り込んでアルバムを作ろうということになりました。
時系列でいうと、九州ツアーの途中でセンチメンタル・シティ・ロマンスの細井豊さんに電話して「アルバムを作りたいので手伝ってください」とお願いしたんです。それでその2日後ぐらいのライヴで「Lean on Me」をうたったたら、お客さんから「金子マリさんを思い出すので、一緒にうたっているのを聞いてみたい」といわれたんでう。わたしにしてみれば、え〜そんなぁ! って感じで、恐れ多い。でもせっかくなので、図々しいですけどお願いしたら快諾していただいたんです
吉村瞳 全曲オリジナルで、日本語の歌詞というのを目指しました。わたしにとってははじめての挑戦なんです。そのことを2018年ぐらいから19年にかけて意識していて、歌詞を吟味して、書き換えたりしていました。そうしていくうちにいろいろなタイプの曲ができあがってきて、バンドの構成も変化していきました。なので曲ごとに、できるだけたくさんのミュージシャンの方々に手伝っていただこうという思いが強くなっていったんです。
吉村瞳 それも、もしかするとコンセプトだったのかもしれません。できるだけギター・アルバムという要素をなくしたかったんです。歌中心にしたかった。それでもチャールズさんとかからは、ここでスライドを入れたりしたらかっこいいんじゃないかとアドバイスをいただいたりしましたけど。
Q : 全曲オリジナルだけど「Lean on Me」は例外?
吉村瞳 はい、そうです。「Lean on Me」はボーナストラックという扱いにさせていただきました。でも『stories』のなかでは一番最初にレコーディングしたんです。2020年2月28日でした。
Q : 金子マリさんとは以前から交流があったんですか?
吉村瞳 何度かライヴに呼んでいただいたことがありました。わたしと本夛マキとふたり。そのときに本夛マキさんから「Lean on Me」のカヴァーをすすめられてうたいはじめました。
Q:「Lean on Me」のキーボードはチャールズ清水さんですね。
吉村瞳 チャールズさんとはこのレコーディングではじめてお会いしました。1970年代に石田長生さんや山岸潤史さんたちとバンドを組まれていたことは知っていたんですけど、80年代に入ってから(短い期間ですが)金子マリさんともバンドをやられていて、その関係でおせわになりました。
チャールズさんには音楽以外にも「コロナから抜け出したときは、もっといろんなところへ出歩いて、吉村瞳独自の“輪”のようなものを作らなきゃいけない」と教えてもらいました。それがわたしの音楽を大きくすると。クラブハウスなどで(相手の顔が見えない状態で)人との交流を持つように考えはじめたのもその影響です。
マック清水さんは以前からライブハウスでお会いすることはあったのですが、一緒に演奏していただいたのははじめてです。
吉村瞳 チャールズさんがうたってくれたのは「the juggle of the jangle」という曲です。いきなりエンディングにスキャットを入れようとドクター・ジョンのようにうたってくれました。
ベースの永本忠さんは、知り合いの方から「凄いベーシスト」だと聞いていて、チャールズさんからも「絶対にいい」っていわれていました。それで金子マリさんのライブへ行ったら、偶然、永本さんがベースを弾かれていて、お願いしたいと思ったんですけど、言えなくて、でもなんとか連絡先を聞いたんです。
吉村瞳 わたしはこの数年、ソロで演奏してきたのでわたし自身のなかで独自のリズムが出来上がっていて、永本忠さんやマック清水さんとのバンドのリズムにノリきるのが大変でした。ソロ・ライブの数は人並みにあるほうですが、バンド編成の経験値はまだまだです。
このレコーディング以降、チャールズさんのピアノだったり、細井さんのオルガン、マックさんや丹菊さんのパーカッションがずっとわたしの頭のなかで鳴ってるんです。それを思い出しながらグルーヴを取りにいっているような感覚です。
弦楽四重奏のチドリ・カルテットさんたちと演奏するのもはじめてでしたし、ペダル・スティールの駒沢さんやハーモニカの松田さんとのデュオも初体験で、コロナ禍で中断はありましたけど、ずっと夢見心地で、至福の時間でもありました。
0 件のコメント:
コメントを投稿